EVトラックのパイオニア、カーボンニュートラルで先行する三菱ふそうのEV戦略[インタビュー]

EVトラックのパイオニア、カーボンニュートラルで先行する三菱ふそうのEV戦略[インタビュー]
  • EVトラックのパイオニア、カーボンニュートラルで先行する三菱ふそうのEV戦略[インタビュー]

EVや電動化において、日本はなにかと遅れていると言われている。しかし、日本の電動化技術が遅れているわけではない。にもかかわらず、市場がそのように捉えているのは、技術があるのにプロダクツが(リーフ・アイミーブ以外)見えなかったからだ。

日産・三菱以外のEVもようやく動き始めた感はあるが、2社の取り組みと前後して2010年ごろからEVに取り組んできたのが三菱ふそうトラック・バスだ。プロトタイプの小型EVトラック「E-CELL」の発表は2010年、2013年には2代目「E-CELL」へと進化させ、2017年には「eキャンター」として商用車メーカーとして国内初となるEVトラックの量産販売を開始している。

EVトラックのパイオニアと言える三菱ふそうの電動化戦略とその課題について、同社副社長兼開発本部本部長 安藤寛信氏に聞いた。

安藤氏は、4月20日に開催する無料のオンラインセミナー カーボンニュートラルとEV普及の潮流に登壇し、EVトラックの市場導入とカーボンニュートラル輸送の展望について講演する予定だ。

課題は技術より業界の取り組み

――三菱ふそうは、国内で最初にEVトラックの量産を開始したメーカーです。EVトラックでは先行しているわけですが、その三菱ふそうが考えるEVトラックの課題はなんでしょうか。

安藤氏(以下同):私たちの目標は商用車メーカーとして物流のカーボンニュートラル化に貢献することですが、EVトラックが世の中に普及し、カーボンニュートラルな物流が実現するまでには、まだまだ長い道のりがあります。世の中を走っているディーゼルトラックが全てEVに入れ替わるのには相当時間が掛かりますし、その台数に応じて充電インフラも普及していかなければなりません、追加電力の確保も必要です、電力そのものもカーボンニュートラルでないといけません。これらの変化は、一つ一つが非常に時間が掛かる上に、お互いに関連しあっており、なかなか進まないというのが現状です。最初にお話ししたいのは、私ども三菱ふそうが、このようなタイミングで、なぜEVトラックを量産し、2017年から販売しているのかという点です。私達は地球温暖化が未来の問題ではなく、今まさに起きている問題だと考えています。インフラが整ったら、市場が熟したら、電力が確保されたら、と待っていては、必要な変革は進みません。「鶏と卵」でお見合いをしていたら時間がかかりすぎるのです。周りの動きを待たずに、自分たちが勇気をもって最初の一歩を踏み出す必要があると考えました。

――なるほど。化石燃料への厳しい目が広がっている中、課題はバッテリーなどの技術面より各社、各業界の取り組み姿勢なのかもしれませんね。

はい。もちろん技術的な課題も残されていますが、日本が技術的に世界に遅れているとは思いません。日本社会全体の危機感が薄いことが問題だと考えます。温暖化対策、CO2の削減はいわば短期決戦で取り組む必要があります。ビジネスとしての環境が整うまで待つことはできないのです。各業界が使命感をもってそれぞれの役割を果たすことが重要です。私ども三菱ふそう1社がEVトラックを売ったところで、地球温暖化が止まることはありませんが、1社が動けば他社も動き始めまます。業界が動けば、市場にも、他業界や行政にも動きが生まれます。私たちは日本の社会全体に変化をもたらしたいと考えています。

電動化に対する市場認知とニーズの変化は感じる

――既存技術を洗練させていくことも重要ですが、最新技術や新機軸を採用した車がでて各社が切磋琢磨していかないと発展や成長は望めないかもしれません。

仰る通り、新しい技術は市場に出て競争の中で発展・進化していきます。ただ、乗用車であれば、新しい技術が「夢」として付加価値になり、お客様に購入していただけるのですが、商用車はそう甘いことばかり言っていられないのが正直なところです。ビジネスの道具である商用車では、技術の先進性や将来性よりも、価格や効率、信頼性が優先されます。実はEVの経済性はトータルではディーゼルに劣らないのですが、なかなかご理解いただけないというのが現状です。

――ただ、グローバルな物流業界では脱炭素や環境負荷低減がひとつのテーマになっており、そのプレッシャーが益々増えている印象もあります。国内でもそのような動きは感じられますか。

はい。特に大手の物流業者様がラストマイル配送用にEVトラックを導入するなどの動きがあります。また、グローバルに事業を展開をされている大手企業では、ESG投資に取り組む中でサプライチェーンのカーボンニュートラル化を進めており、国内中堅規模の物流事業者様でも、荷主からの要望で、興味を示されているところは多いです。

――バスも同様でしょうか。

バスは公共交通のニーズから自治体主導の予算や事業でZEV化を推進されているところが増えています。しかし、日本のバスはほとんどが国内市場向け専用に作られており、市場規模が小さいために、どうしても優先度を下げてしまっているというのが実情かと思います。これに対して、中国勢は本国の巨大な市場と政策支援もあって、様々なEVバスを開発し、世界中で展開しています。我々としてもこのままで良いとは思っていません。カーボンニュートラルなバス開発は進めています。

FCは長距離輸送の候補

――FC(燃料電池)のバスはすでに存在しますが、三菱ふそうもバスはFCVになるのでしょうか。

将来の製品に関する具体的なお話はできませんが、一般論で言えば、一運行当たりの走行距離が、FCVとEVを使い分ける当面のキーになると考えています。配送トラックや路線バスであれば現状のバッテリー技術、充電インフラで対応できますが、長距離トラックや長距離バスとなると燃料電池が有力な候補になると考えています。

――FCV、燃料電池の課題についてはどうとらえていますか。

弊社は2039年までにすべての車両をカーボンニュートラルにすることを目指しており、もちろんFCVも計画の中に入っています。詳しいロードマップはまだ申し上げられませんが、一番の課題として認識しているのはインフラです。現在日本では150か所以上の水素ステーションが整備されていますが、現実問題として大型トラックが使用できる設備はほとんどありません。他社様が行われている事業でも、水素インフラとセットで行う実証実験がほとんどです。FCVはEVより普及に時間がかかると考えています。

――三菱ふそうはダイムラートラックグループとしてグローバルなFCV開発にもかかわっていますが、海外でも水素は似たような状況なのでしょうか。

水素インフラは欧州の方が進んでいます。社会全体のカーボンニュートラルや地球温暖化に対する危機感もレベルが違う印象です。親会社のダイムラートラックはボルボとの合弁会社(JV)を立上げてFCVの開発を共同で行っています。2027年までに量産型のFCVトラックを出す計画があり、三菱ふそうでも2020年代中には出せるのではないかと考えています。車両開発や水素技術については、親会社やボルボとの合弁会社とコミュニケーションをとっています。

充電インフラ整備への取り組み

――EVの充電環境について話を戻させてください。あらためて三菱ふそうとしての充電環境の整備について教えてください。

三菱ふそうの販売拠点は、現在全国に185か所あります。現在43拠点についてDC急速充電器が設置済みです。これは急速充電器の話で、AC200Vの普通充電器はもっと多くの拠点に設置済みです。年内に急速充電と普通充電を合計で約90拠点に追加で設置する予定です。

――先般、eキャンターのボディサイズを増やし、ニーズの高かった2トンクラスの小型EVトラックやワイドキャブのEVのプロトタイプが発表されました。ラインナップの充実や今後の車種展開を考えると、充電設備の高出力化への対応はどうお考えですか。

弊社で充電設備の高出力化に取り組むことは考えておりませんが、自動車工業会の枠組みの中で、他の商用車メーカーと協力して、トラック用に必要な充電器のスペックについて提言を取りまとめています。

安藤氏が登壇する無料のオンラインセミナー カーボンニュートラルとEV普及の潮流は4月18日正午申込締切。
《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集