2030年5000億円を目指して先行する水素ビジネスの可能性…フォルシア・ジャパン 浜田香留樹氏[インタビュー]

2030年5000億円を目指して先行する水素ビジネスの可能性…フォルシア・ジャパン 浜田香留樹氏[インタビュー]
  • 2030年5000億円を目指して先行する水素ビジネスの可能性…フォルシア・ジャパン 浜田香留樹氏[インタビュー]

来たる6月23日、【EV海外OEM・部品メーカーセミナー】第7回フォルヴィアフォルシアの水素戦略が開催される。セミナーに登壇するのは、フォルシア・ジャパン株式会社 ゼロエミッション プロダクトラインマネージャーの浜田香留樹氏。

このセミナーでは、燃料電池に関するビジネスを以前より推進し、現在では特に車載水素タンクで存在感を発揮するフォルシアの取り組みや展望を聞くことができる。

当日はQAセッションも設けられ、モデレーターである日本電動化研究所 代表取締役の和田憲一郎氏を交えて、参加者と共に深い議論を進めていく予定だ。

浜田氏にセミナーの見どころを聞いた。

■水素モビリティの可能性

BEVが徐々にシェアを増やすなか、水素モビリティについてはいろいろな予測があり、意見が分かれるところでもある。水素モビリティ関連事業で先行するフォルシアは、その点をどのように考えているのだろうか。

「私たちのゼロエミッション化に関する考えを述べると、2025年から2030年の間にバッテリーEVが増加し、並行して2025年ごろからFCVが普及し始めると考えています。グローバルな視点で見ると、特に商用車や大型車の3%から6%が水素へと移行する可能性があります。」

「高速バス、大型トラック、ピックアップなどはFCVが増えるでしょう。また、中間層の車両は、使用目的や利用状況に応じて、バッテリーEVやFCVのいずれかになると見ています。」

「私たちは2018年に70メガパスカル対応のType4車載水素タンクを開発しました。その後、2018年3月にステランティスの商用ワゴン車、2019年8月にヒョンデのトラック、そして2020年5月にはさらに別の会社の車両用貯蔵システムを受注しました。」

「2019年11月には、ミシュラン社と共に50対50の出資で、シンビオ(SYMBIO, A FAURECIA MICHELIN HYDROGEN COMPANY)という合弁会社を設立し、弊社の燃料電池・スタックの事業をすべて移管しました。さらに今年の5月、ステランティスが今後資本参加し、33.3%の株式を取得することで合意したことが発表されました。

「2021年2月には、中国の水素タンクメーカーであるCLDを買収し、中国の水素貯蔵事業にも参入しました。さらに、同年11月にはエアリキードと液体水素の貯蔵に関する技術提携を行い、液体水素タンクの開発を開始しました。そして、2022年3月にはヨーロッパのプロジェクト「ゼロエミッションバレー」に選ばれ、コンテナ水素貯蔵の開発を開始しました。」

「現在、2種類の量産車向け水素貯蔵システムを製造しており、3車種目の製造は今年開始予定です。」

■水素関連事業で2030年に5000億円を目指す

水素モビリティ関連で幅広い事業を展開するフォルシアは、必要な装置群の75%をカバーし、2030年には5000億円規模のビジネスを目標としているという。

「水素関連の事業は大きく3つに分けられます。子会社シンビオの水素スタックFCシステム、車載用の水素貯蔵システム、そして今後注力する予定の水素の貯蔵および流通システムのコンテナ式水素貯蔵です。これら3つの事業で、2030年の目標として5000億円のビジネスを目指しています。」

「燃料電池車(FCV)に関しては、シンビオとフォルシアで必要な装置群の約75%の価値を占めていると考えています。さらに、ヘラー社の買収により、残りの25%のアクセサリーの一部もフォルヴィアグループとして、ヘラー社と共に広げていく計画です。」

※2021年にフォルシアグループは、同じく部品メーカーであるヘラーを買収している

■車載用水素タンクで市場をリード

ステランティスおよびヒョンデのFCV向けに水素タンクを提供するなど、フォルシアは水素タンクを中心とした製品を展開している。

「既に私たちは様々なお客様と取引を行っており、各社と試作や量産(現在2車種)を進めています。小さな商用車から大型の商用トラック、オフロードの建設機械や特殊車両まで、多様な製品に対応しています。」

「車載用水素貯蔵タンクについては、まずタンクを作り、その上に安全弁などを取り付けてコンテナ化します。これにフレームや補給品を追加します。具体的には、充填口、スタックへの圧力調整を行うレギュレーター、各種センサー、システムコントローラーなどを組み合わせて、量産車向けシステムを作ります。これらのシステムはそのまま車に搭載可能な形になっています。」

「さらに、我々は各種車両の用途や搭載方法に対応できるように、Type 1 / 3 / 4、35メガパスカルから70メガパスカルの圧力に耐えるタンクを開発しました。最小は直径200ミリから最大550ミリ以上のものまで対応しています。」

■水素エネルギーの特性を活かすコンテナソリューション

フォルシアは水素を貯蔵するコンテナソリューションに力を入れている。車載用の大型水素タンクを36本、ひとつのコンテナにまとめた仕組みのものだ。

これをコンテナごと移動したり、コンテナを船舶の水素タンクとして利用したり、コンテナからFCVへ水素を供給したりするなど、運べるエネルギーという特徴を活かしたサービス展開を検討しているという。

「弊社のコンテナソリューションは多様な用途を視野に入れて開発されています。たとえば、大型トラックや電車にこのコンテナを直接積み込み、そのまま動力源としての水素を供給するという方法があります。」

「またコンテナを運ぶことによって、バーチャルパイプラインという形で高圧ガス水素の輸送を行うことも可能です。」

「コンテナから直接車両に水素を供給したり、データセンターや災害時の電源車に燃料電池システムと共に移動し、エネルギーを供給するといった方法を考えています。このコンテナソリューションは複雑で、法律の制約もありますが、現在ヨーロッパで各種の認証取得や強化策を進めています。その結果、このコンテナは水素タンク36本を積むことができ、利用可能な水素を約381キログラム貯蔵することが可能です。コンテナ自体の重さは約12トンです。」

「そのほか、液体水素貯蔵については、高圧ガスよりも貯蔵効率が向上する点が魅力です。しかし、液体水素は‐253度という極低温で、水素は速やかに蒸発する特性があります。そのため、魔法瓶のような真空の二重構造タンクに保持し、各種ヒーターやリリーフ弁などを用いて水素の貯蔵および供給を行います。」

「最後に、水素タンク自体に関してはまだ課題が多く、例えば使用するカーボンファイバーの量を減らしたり、その製造過程で排出するCO2を減らしたり、リサイクルの難しいカーボンファイバーのリサイクルシステムを構築したり、タンク自体の寿命を伸ばすなどの課題に取り組んでいます。」

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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