トヨタ ギル・プラット博士が見たジャパンモビリティショー、語られた「日本の可能性」とは【池田直渡の着眼大局】

トヨタ自動車 チーフサイエンスオフィサー(CSO)、トヨタリサーチインスティチュート(TRI) CFOのギル・プラット博士
  • トヨタ自動車 チーフサイエンスオフィサー(CSO)、トヨタリサーチインスティチュート(TRI) CFOのギル・プラット博士
  • ジャパンモビリティショー2023で開催されたジャパンフューチャーセッション「Mobility of the mind ~ 未来を切り開くモビリティの力」に登壇するギル博士
  • トヨタ自動車 チーフサイエンスオフィサー(CSO)、トヨタリサーチインスティチュート(TRI) CFOのギル・プラット博士
  • トヨタ自動車 チーフサイエンスオフィサー(CSO)、トヨタリサーチインスティチュート(TRI) CFOのギル・プラット博士。コカ・コーラは、ギル博士の“エナジードリンク”なのだという
  • トヨタ自動車 チーフサイエンスオフィサー(CSO)、トヨタリサーチインスティチュート(TRI) CFOのギル・プラット博士
  • トヨタ FT-Se(ジャパンモビリティショー2023)
  • トヨタ FT-3e(ジャパンモビリティショー2023)
  • トヨタ ランドクルーザーSe(ジャパンモビリティショー2023)

ジャパンモビリティショーも後半に突入した11月2日。トヨタのチーフサイエンスオフィサー(CSO)であり、北米拠点で最先端技術の開発を行うトヨタリサーチインスティチュート(TRI)のCFOでもあるギル・プラット博士が、ジャパンフューチャーセッションで講演を行った。

講演の模様はJAMA(日本自動車工業会)の公式チャンネルでアーカイブ配信されているので是非ご覧いただきたい。


◆ハイコンテクスト文化に日本の可能性を見出す

さてこの講演では“Mobility of the Mind (心のモビリティ)”をテーマに、日本の特質を語るものとなった。

筆者がなるほどと思った部分を抜粋すると「欧米人は何かを伝えるときに多くの言葉で伝えます。しかし、日本人はそれほど多くの言葉を使いません。日本の文化はハイコンテクスト文化と呼ばれ、文脈を大切にする文化です。言葉が少ない分を、想像力を働かせて共感をもって補完するのです」というもの。

ハイコンテクストにはもちろん長所も短所もある。日本人の間では、それをネガティブなニュアンスで使ってきた。例えば「No! と言えない日本人」の様な言い方が典型である。しかし、ギル博士は、そこに日本の可能性を見出す。

ハイコンテクストの背景にあるのは共感であり、相手のことを推測し思いやる気持ちである。自分の行動が相手に、例えば喜怒哀楽のどの感情を引き起こすのかがわからなければ、ハイコンテクスト文化は成立しない。だから多様な人々の多様なあり方にハイコンテクストで対応し、その時々の多様な解決方法を提示することができる。

相手のことを慮る気持ちがなければ、真理の名の下に相手の事情を排除して「唯一解」を押し付けることになる。トヨタが継続的に「マルチパスウェイ」を主張する背景にはこのハイコンテクスト文化がある。そう博士は解き明かしたのだ。

講演後に行った独占インタビューを通して、ギル博士の見解と想いを伝える。

◆もっと繋がれる商品を作れるか? は追求する余地あり

---:ギルさんの講演を聞くといつも新しい原理原則に気付かされるのですが、ジャパンフューチャーセッションでのお話も、とても素晴らしいものでした。特に感銘を受けたのは、今回のテーマでもある「エンパシー(共感)」の話でした。ボクの中でとっても納得したのはそれが、マルチパスウェイとすごく関係性が深いということですね。「思いやりがあったら、誰かに何か一つの方法を押し付けたりしないんだ」と。これはすごく新しいメッセージだと思っています。

一方で、今回ボクが強く興味があるのは、世界のモータショーが現在進行形で軒並み来場者が激減している中、このモビリティショーが他国に先駆けて新しいトライをしているということです。

モビリティショー開会の挨拶の中でも豊田章男自工会会長がそこを非常に強調していたし、「仲間と一緒に新しい未来を創っていくんだ。もう個社で何かができる時代ではないんだ」ということもおっしゃっていて、それはギルさんが講演でおっしゃっていたエンパシーの話とすごく繋がるなと思いました。

ギルさんからご覧になって、今回のショーの中でその繋がり感を強く感じたものがあったらぜひ教えてください。

ギル・プラット氏(以下敬称略):特に西館の自工会のブース、「Tokyo Future Tour」で感じたところがあります。新しい様々な商品が紹介されましたが、そこには共通項がある。どれもお客様中心の設計がされていると思いました。

もちろん商品の話なので、どんな商品であっても「これはお客様のことを考えて、お客様中心で作った」ということは言われがちだと思うのですが、必ずしもそれは真実じゃないと思っています。

ちょっと奇妙に感じるかもしれませんが、私が今頭に浮かぶ例は新型コロナの感染診断テストのことです。たまたま私は2つの会社のキットを続けて使いました。よくある診断キットなのですが、もちろんどちらも同じように、正確な結果が出るように作られています。機能はそれで満たされているんですが、一社の製品は明らかに「お客さんのことを考えているな」というのがわかる、使いやすい診断キットでした。もう一つの方は、そうではなかったんです。「利益率を考えているな、安いコストで作ったのだな」というのがわかりました。機能は同じでも、そこには「お客様中心」への考え方の差が存在したのです。

このモビリティショーに話を戻しますと、お客様を第一に考える、カスタマーファーストの精神というのを、みんなが共通のテーマとして持っているのは感じています。ただもっともっとそれができるポテンシャルがあるとも思っています。特にどうしたらお客様同士がもっと繋がれるような商品を作れるかは、さらに追求する余地があるでしょう。まだまだ始まったばかりだと思います。

◆共感できるストーリーを伝えなくてはいけない

---:繋がりですよね。人と人との繋がりを軸に製品を作っていくっていうのは、概念としては全く難しいことではなくて、誰にもわかりやすいんですが、現実にそれを組織の中で回していくとき、それをどうやってみんなに共有させていくかというところがすごく大きな課題だと思います。そこについて何かアイデアはありますか。


《池田直渡》

池田直渡

自動車ジャーナリスト / 自動車経済評論家。1965年神奈川県生まれ。1988年ネコ・パブリッシング入社。2006年に退社後ビジネスニュースサイト編集長に就任。2008年に退社。以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。近年では、自動車メーカー各社の決算分析記事や、カーボンニュートラル対応、電動化戦略など、企業戦略軸と商品軸を重ねて分析する記事が多い。YouTubeチャンネル「全部クルマのハナシ」を運営。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答も行っている。著書に『スピリット・オブ・ザ・ロードスタ ー』(プレジデント社刊)、『EV(電気自動車)推進の罠「脱炭素」政策の嘘』(ワニブックス刊)がある。

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