EV化で自動車関連産業はどう変わる?新たなニーズや課題を取り込んで成長するEV市場…日本総研 程塚正史氏[インタビュー]

EV化で自動車関連産業はどう変わる?新たなニーズや課題を取り込んで成長するEV市場…日本総研 程塚正史氏[インタビュー]
  • EV化で自動車関連産業はどう変わる?新たなニーズや課題を取り込んで成長するEV市場…日本総研 程塚正史氏[インタビュー]

先が読めない大変革期と言われている自動車産業において、紆余曲折ありながらもEVシフトは確実に進んでいる。レスポンスの無料セミナー「世界OEM各社のEV化と今後の進化普及に向けて」では、グローバルで活躍するコンサルタント、電動化に強いOEM、ティア1、エンジニアリングサービスのトップを招き、セミナーおよびパネルディスカッションを1月31日に開催する。

このセミナーで産業構造の変化に関して語るコンサルタントとして登壇するのは、日本総合研究所 創発戦略センター シニアマネジャー 程塚正史氏。セミナーではどんなことを語るのか、EVシフトはこれからどのような方向に進むのかを聞いた。

■業界を俯瞰してトップランナーの声を聴く

――セミナーではOEMのEVシフトについて議論されると思いますが、どんなことを話す予定ですか。

程塚氏(以下同):まず今回のセミナーは全体として、私自身はともかくスピーカー陣がとても豪華と捉えています。BYDは、今やグローバルでの販売台数でテスラを超えるEVメーカーで、その日本法人、BYD Auto Japan 代表取締役社長 東福寺厚樹氏が登壇されます。最後に登場する、ブルースカイテクノロジー 代表取締役CEO 矢島和男氏は、初代の日産「リーフ」の開発を牽引した方です。このセミナーは、EVの黎明期から今日までの、OEMのトップランナーが顔を合わせる場と言えるでしょう。

また、EV化に伴ってE/Eアーキテクチャーが重要になりますが、SDVを強く意識したE/Eプラットフォームを手掛けるZFから、ゼット・エフ・ジャパン 代表取締役社長 多田直純氏が登壇されます。また、センシングの重要性は増すばかりですが、キーサイト・テクノロジー・インターナショナルの中野敬介氏が登壇されます。このように、時系列での進化と、OEMからサプライヤーまでの深化が見られるセミナーだと感じています。

僭越ながら冒頭での私のセッションでは、近年の市場動向についてざっと俯瞰したうえで、今後、EV普及に必要な戦略に関しての仮説についても述べる予定です。

■EV市場の課題は何か

――急激に成長しているEV市場ですが、ここにきて踊り場という声もあります。

EVシフトについては、停滞期や踊り場という意見もあり、たしかに成長率が頭打ちになっているとのデータもあります。ただ、EV化の背景には、各国政府の自国産業育成や保護といった面とは別に、パリ協定に代表されるカーボンニュートラルに関する考え方があるのも確かです。そしてこのような考え方は、特に欧州では一般市民からの支持を得ている状況で、全体としてはまだまだEV化の流れは続くと見るのが自然だと思われます。IEA(国際エネルギー機関)が、現状の各国政府の目標ではカーボンニュートラルの実現は難しいと主張しているように、もっと推進すべきという議論もあります。米国での政権交代の可能性をはじめ不確実要素は多くあり、一進一退を繰り返すこともまだまだ想定されるものの、全体としては多くの伸びしろがあると見るべきと思います。

――日本のEV市場の課題はなんですか。

まず市場の変化を振り返ると、2009年には三菱自動車から「アイミーブ」が、その半年後には日産から「リーフ」が世界に先駆けて販売開始されたように、15年前の時点で日本はEV先進国でした。しかし市場には十分に浸透せず、その日本を横目に、2010年代半ばごろから中国でのEV普及が本格化しました。同時に米国市場ではテスラが孤軍奮闘し、EVはかっこいいものだとの認識が広がります。欧州市場でも2020年前後からEVが一般向けに販売され始めます。テスラが牽引してきた米国では今まさに、今年の選挙の行方も気になりますが、カリフォルニア州を起点に本格化しそうな状況です。

一般的には、EV普及には政策誘導があったから、という認識が強くあり、もちろんそれはそれで間違いないことだろうと思われます。一方で、いずれの市場でも、EV化を強く牽引する主体がいたことも指摘できます。米国市場ではそれがテスラであり、中国市場では政府の役割が大きいとはいえ、蔚来汽車はじめ新興ブランドがいて、BYDのように大量生産を始めたOEMがいます。電池メーカーも飛躍的に発展しました。欧州市場での主役は特定しにくいですが、伝統的なブランドやメガサプライヤーがその役割を担っていると言えるでしょう。

日本市場では、良くも悪くも、そのような主体が見当たらないことが指摘できます。だからダメだと短絡的に言うべきではないのはもちろんですが、世界のEV市場で戦っていくに向けて、母胎となる自国市場がないことは、日系のOEMやメガサプライヤーにとってハンディキャップになると捉えることができます。

今後、EV化によって新たなニーズや課題が表面化してくると想定されます。車としての乗り心地や使い勝手は基本部分として残りますが、新たなニーズや課題をいち早く探知して対応することや、あるいは自らがニーズを生み出していくような動きが必要です。EV化の流れが世界的にまだまだ続く中で、自国市場でそのようなトライアルができないことは、日系のメーカーにとって望ましいことではないはずです。

■EV化によって生まれる市場

――EV化に伴うニーズや新たに生まれる課題というと?

これまでの車づくりではなかった部分です。たとえば、今では当たり前の話ですが、EV普及には充電インフラが必要です。また、電池をどのように調達するのか、製造するのかという課題もあります。よく言われるように石炭火力が電源の電力を使ってもカーボンニュートラルには貢献できず、再エネ電源の電力をどう確保するのかといった、業界を超えた視点で考えるべき課題もあります。

実はテスラは、このような充電インフラや電池などの課題に、真っ向から自社で対応してきた企業です。車両自体の見栄えの良さなどだけでなく、EV化に伴う付随的なニーズに真摯に向き合ってきたからこそ、市場での高評価につながっています。

では、EV化に伴う新たなニーズや課題に、すでにテスラなどの大手がすべて対応済みかというと、そうではありません。世界中の優秀なエンジニアや経営者が競い合っていますが、まだまだ顕在化していないニーズや課題があるはずです。テスラが充電インフラなども手掛けているように、そのようなニーズや課題に包括的に取り組むことが、今後の戦略として有望と考えられます。当然、それが何かについて、現時点での予想は難しいものですが、例えば3つの点は指摘できると考えています。


《中尾真二》

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