分解してわかった! テスラと対照的な韓国製BEV アイオニック5、設計思想と世界で売れている理由

従来のエンジン車から乗り換えたときに違和感が無い

BEVとしても非常に優秀な静音・防振性能

分解して初めて見えてくるアイオニック5の設計思想

日本市場や安全に対する細かな気配り

スポット溶接と連続溶接を組み合わせた高剛性ボディ。
  • スポット溶接と連続溶接を組み合わせた高剛性ボディ。
  • 韓国や欧州で販売好調が伝えられるBEV、アイオニック5
  • アイオニック5の操作パネルは大型のタッチパネルを使いつつ、伝統的なスイッチ類も残している。
  • ブレードが波形で等間隔ではない並びで、風量確保と騒音低減を狙っている。
  • 振動と騒音を産む電動コンプレッサを、肉厚のアルミ製マウントに防振ゴムでマウント。さらにそのマウントを防振ゴムで車体フレームにマウントしている。
  • e-Axcelは高さ方向の寸法が抑えられている。
  • コンパクトなe-Axelは後輪の間にスッキリ収まる。
  • アルミ押し出し材を使って軽量化された電池ケース。

日本でBEVといえば米国のテスラが相変わらず大人気だが、韓国製BEVであるヒョンデ 『IONIQ5アイオニック5)』も世界的には売り上げが好調だ*。

しかし、同じBEVといっても両者はかなり違うものだ。今回は試乗するだけでなく、アイオニック5を分解してみて確認できたEVという商品としてのなりたちとテスラとの違いについて、長年自動車業界で活躍しEVに詳しい鈴木万治氏が解説する。

◆従来のエンジン車から乗り換えたときに違和感が無い

アイオニック5に初めて乗って感じるのは、操作感や運転感がエンジン車に近くて違和感がないということ。対極にあるテスラと比較すると、そのコンセプトの差が浮き彫りになる。

例えば、操作系。テスラは、ほぼ全ての機能をタッチパネル画面で操作するスマートフォンやタブレットのようなUI(ユーザーインターフェイス)となっている。しかし、アイオニック5は自動車としてオーソドックスな物理スイッチを残しつつ、タッチパネルも採用した操作系を採用している。従来のエンジン車のような、物理スイッチだらけのデザインではなく、タッチパネルと物理スイッチがバランスよく配置されているため、他車から乗り換えても違和感なくなじめる。

走り始めると、回生ブレーキの効きが緩めであることに気づく。これでは、BEV特有のワンペダル運転はできない。しかし、それは試乗用の初期設定であり、設定を変更すれば、テスラ同様に強力な回生ブレーキでのワンペダル運転も可能となった。つまり、乗り換えた直後は、回生ブレーキを緩めに設定おくことでエンジン車からの違和感を低減でき、BEVの運転に慣れてきたらワンペダル運転も可能ということだ。

多くの人は、エンジン車からBEVに乗り換える。この違和感の低減は、趣味でクルマに乗っている“クルマ好き”ではなく、日常の移動手段としてクルマを使っている人たちに配慮した設定だと言える。

◆BEVとしても非常に優秀な静音・防振性能

ここからは岡山県産業振興財団主催のアイオニック5分解イベントに参加させていただき、分析した知見も加えて解説していく。

アイオニック5を運転していると、BEVの中でも、特に静かで振動が少ないことに気づく。BEVの魅力は、エンジンが無いことによる静粛性と振動が少ないことではあるが、全てのBEVの中でも、アイオニック5は非常に高いレベルでの静粛性と防振を実現している。試乗しただけではわからないが、分解することでさまざまな工夫点がわかった。

まず、電動ファンを見てみる。パワートレイン系の冷却、冷房系の熱交換器には、冷却用の電動ファンが必須となる。エンジンがないBEVで、大きな音の発生源となるのが電動ファンだ。その低騒音化は設計の要となる。ファンの風量と静粛性は相反する要素となるため、その両立が課題となる。アイオニック5のファン形状に注目してほしい。最近では一般的なブレードの配置を不等間隔にする設計に加えて、ブレード自体を波形形状としている。それにより、十分な風量と低い騒音の両立を狙った設計だと考えられる。


《鈴木万治》

鈴木万治

鈴木万治|スズキマンジ事務所代表 1986年(昭和61年)名大院工学部原子核工学修了、日本電装(現デンソー)入社。宇宙機器開発やモデルベース開発など全社プロジェクトを担当。2017年から20年まで米シリコンバレーに駐在し、18年からは中国子会社のイノベーション部門トップも兼務。数週間ごとに米中を行き来する生活を送った。21年にスズキマンジ事務所を開業。(記事は個人の見解であり、所属する会社とは一切関係ありません)

+ 続きを読む

特集