スバルは3月に、アイサイトの開発にAIがどのように活用されたのかの技術セミナーを、NVIDIA GTCにおいて開いた。スバルが取り組む自動運転研究のアプローチも語られ非常に興味深いものだった。スピーカーはスバルラボの齋藤徹副所長。
アイサイトを支えるAI技術
スバルの「アイサイト」についてもはや詳しい解説や紹介は不要かと思う。2つのカメラ画像の視差情報から対象の距離がわかる画像認識技術だ。スバルは、ステレオカメラによるアイサイトによって、衝突被害軽減ブレーキや追従型クルーズコントロール(レベル2自動運転)の性能を各段に向上させた。これらの機能で、フィールドで実用に耐える性能を最初に出したのはスバルと言っていいだろう。
制御にレーダーやLiDAR、高精度3Dマップなどを使わず、カメラのみにこだわったことで、コストを抑えることにも成功した。それまで、高度な安全性は金で(オプションで)買うものだったが、高性能ながら全車標準装備という安全機能の理想的な要件も実現した。
しかし、アイサイト(ステレオカメラ)は原理的に対象の識別とその距離を測ることはできるが、対象が何なのかはわからない。対象が車なのか歩行者なのか、はたまた構造物なのかの認識は、自動ブレーキやADAS機能に欠かせない。アイサイトではどのようなAI技術が使われているのだろうか。
水平方向に距離を置いて設置された2台のカメラ(ステレオカメラ)に写る画像を重ねると、物体の位置が少しずつずれた状態でだぶって見える。2枚の画像のずれた距離が「視差」である。同じ点のピクセル位置から求めた視差と、2台のカメラの間隔、カメラの焦点距離がわかれば、その点までの距離がわかる。
SUBARU ASURA Netの基本コンセプト
これがステレオカメラの測距原理だ。画像情報から距離が計算できるなら、画像処理によって見えている物体を距離ごとにグループ分けすることができる。だが、これだけでは対象物が何かまではわからない。この認識には機械学習などAIによる画像認識技術が必要になる。カメラとの組み合わせによる画像認識は、AIの得意分野のひとつだ。
アイサイトに搭載されているAIモデルは、道路、車両、歩行者、信号、標識、車線や道路標示の識別が可能だ。これらを個別に認識するAIを構築するのは比較的簡単だ。だが、同時に識別して適切な車両制御につなげる情報を作るには工夫が必要だ。齋藤氏によれば、スバルでは「SUBARU ASURA Net」という画像処理ネットワークを構築した。