【ホンダ XL750トランザルプ 試乗】終のバイクに“真ん中直球ストライク”の一台だった…西村直人

ホンダ XL750トランザルプ
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  • ホンダ XL750トランザルプに設定されるクイックシフター

四輪車にSUVブームが訪れるずいぶんと前から、二輪車にはオールラウンダーモデルと呼ばれるカテゴリーがあった。さまざまな解釈や捉え方があるが、ホンダでいえば1979年の『XL500S』がオールラウンダーモデルのルーツといえる。今回試乗したホンダ『XL750 TRANSALP(トランザルプ)』はアドベンチャースタイルという名称でここに属す。

今でこそ「アドベンチャーモデル」という立派なカテゴリー名がつくものの、オールラウンダーモデルは「悪路走破性にすぐれた2輪車」(1979年のXR500S発売時のニュースリリース)というタイトルのもと純オフロードバイクのひとつとして紹介されていた。

今回、新緑がまぶしい山梨県・小淵沢で、名実ともにオールラウンダーとなった新型トランザルプに試乗した。試乗コースはオンロード(一般道路と高速道路)を中心に起伏のないフラットなオフロードを少々。たっぷり2時間、寄り添った。

◆自分らしくイキイキ走らせることができる

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

オンロードでは前輪に21インチの大径タイヤを履いているとは思えない素直なコーナリング特性を堪能し、オフロードではアクセル操作に対する従順な動きと滑りやすい路面でもコントロールしやすい確かなブレーキ性能を実感した。またオン/オフ問わず、優秀なトラクションコントロール機能にも助けられた。

自分らしくイキイキ走らせることができたのは、208kgという扱いやすい車両重量があったから。単に軽いだけでなく重心位置が低く抑えられていること、並列2気筒エンジンで車体がスリムであることから、850mmと高めのシート位置にもかかわらず不安がない。ちなみに純正アクセサリーして着座位置を30mm下げられる「ローシート」(3万3660円)を用意する。

身長170cm/67kgの筆者が正装した状態で乗り込むと、後輪のスプリングイニシャルアジャスターを標準設定にしたままで片足であれば地面に足裏の半分以上が接地する。試乗中、信号機の停止線付近の地面が傾斜していて不安定な姿勢になったが、軽い車両重量とスリムな車体、そしてお尻の位置をずらしやすいシート形状に助けられ、難なく片足で踏ん張ることができた。

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

直列2気筒OHCユニットは754ccの排気量をもつ。最高出力91ps/9500回転、最大トルク75Nm/7250回転でそれぞれ発揮し、6速トランスミッションと組み合わせる。カタログ燃費数値はWMTC値(クラス3-2)で22.8km/リットルだ。筆者による試乗時の燃費数値は24.3km/リットル。

試乗車は純正アクセサリーとして「クイックシフター」(2万4420円)を装備していた。これによりクラッチレバーを操作しなくても、左足のチェンジレバー操作のみでシフトアップ/シフトダウンができる。詳細は後述するが、このクイックシフターは超絶便利でしかも優秀。トランザルプオーナーには是非おすすめしたい。

◆「クラッチフィールへの特別なこだわり」が伝わる

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

試乗はまずオンロードから。素の特性を確かめるべく5.0インチTFTカラー液晶画面を通じ設定モードからクイックシフターの「機能オフ」を選び、軽めのクラッチレバーを握りチェンジレバーを踏み込んで1速へ。

絶妙なクラッチミートフィールを伴って発進、その後、2000回転あたりからは力強い加速を味わう。速度のノリがとてもいい。「操作系のうち、クラッチフィールには特別のこだわりをもって設計した」という開発陣のコメント通り、左の掌にクラッチ板の動きが忠実に伝わってくる。

エンジンはショートストローク型ながら低回転域でも十分なトルクを発揮する。平坦路では2000回転を多少下回ってもむずがることなくスムースに回るし、4速ギヤと5速ギヤの守備が広いため、発進してすぐさまシフトアップするロングツーリングありがちな運転スタイルも受け付ける。2気筒らしいトゥルトゥルトゥルという排気音も心地良い。

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

が、本領を発揮するのは5000回転を超えたあたりから。優しかったエンジン音はV型4気筒エンジンに近い骨太タイプに豹変し、速度の伸びは一段と高まる。高速道路での本線合流時で全開にしてみると1万回転のレブリミッターまで一気に上り詰めた。低速ギヤ段での加速テストとはいえ、速さは十二分だ。

でも恐怖心はない。実際には軽量な車体に91psもあるから立派なスポーツバイクなのだが、トランザルプは5000回転をリミットにして山道を走らせても満足度の高い走りが楽しめる。柔軟な低速域での取り回しと、活発な高回転域、この二面性は病みつきになる。

◆真価を発揮するクイックシフター

ホンダ XL750トランザルプに設定されるクイックシフターホンダ XL750トランザルプに設定されるクイックシフター

こうして元気よく走らせた際に真価を発揮するのが先のクイックシフターだ。シフトアップとシフトダウンを個別にオン、オフさせることができ、さらにチェンジレバーの操作力をソフト/ミディアム/ハードの3段階からやはり個別に選択可能。筆者のおすすめはアップ/ダウンとも、スパッと変速するハードモードだ。

シフトアップ時にアクセルを開けたままでもシステムがスロットルを緻密に制御するのでタイムラグは一切なし。DCT(デュアルクラッチトランスミッション)並の継ぎ目のない加速が楽しめる。シフトダウン時には必要に応じて自動的にブリッピング(回転合わせの空ぶかし)を最小限に行なうため不快なショックがない。

それだけなく、ツーリングでのゆったりとした走行シーン、たとえば2000回転を下回る回転域でも確実に機能するので実用性も高い。それこそ停止直前にニュートラル位置にしておけばクラッチレバー操作は発進時のみ。力作であるクラッチを手動で操作しないのは少々もったいないが、その精密なクラッチ機構があるからこそ、運転支援技術であるクイックシフターが活きてくる。

◆オフロードで実感するバランスのよさ

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

前輪21インチ、後輪18インチの組み合わせからわかるようにオフロードを意識した設定だ。筆者がオフロード走行用に乗るホンダ『XL250』も同じ21/18インチ。その大きな前輪が生み出すジャイロ効果は、不整地で安定した走破性能を生み出す強い味方なのだが、舗装路のうち、右に左にカーブする山道ではその特性が倒し込みの重さとなって現れる。

トランザルプにはその重さがほとんどない。細かく見れば倒し込みの瞬間にオンロード専用のスポーツバイクでは感じない特有の重さがあるものの、それを感じるのは一瞬だ。行きたい方向に頭ごと向けて視線をカーブの先に送るころには、ヒタッと走行ラインを安定させ深いバンク角度(設計上のバンク角度は40.5度)でも車体は少しも揺るがない。

オフロードでは左右に42度と大きく切れるハンドルが有効で、さらにライダーが5つの走行モードから任意で選択できるラインディングモードのうち「グラベル」モードの利便性が高かった。

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オフロードのツーリングでは無理をせずUターンすることが安全への近道であり、結果的に転倒リスクから遠ざかる。トランザルプは低速域でのバランスが取りやすいのでフルロックUターンが一発で決めやすい。その際、先のグラベルモードではトラクションコントロール機能が適度に働くためスロットルオンでもバランスを崩しにくい。

滑りやすい路面ではトランザルプがもつブレーキ性能の高さを実感した。ABSが標準で装備されるとはいえ、路面μが低い砂利道などでは丁寧なブレーキ操作が重要になる。オンロードで十分な制動力を発揮しながら、滑りやすい路面でのじんわりとしたブレーキ操作に対しても確かな制動力を生み出してくれる。その際、フロントフォークがじんわり沈み込むから荷重移動もやりやすかった。

直進安定性も高い。深い砂利道ではハンドルが取られやすくなるが、前21インチの大径タイヤが生み出すジャイロ効果と、後輪のスリップを抑える確実なトラクションコントロール機能の相乗効果は高かった。また、お尻を上げてステップに立って走るスタンディング状態でも、車体の動きが常に安定しているので安心できた。

◆終のバイクに“真ん中直球ストライク”

ホンダ XL750トランザルプホンダ XL750トランザルプ

高速道路でも安定した走行性能は変わらず。若干短めのウインドスクリーンながら、フロントカウルの形状と相まって上半身に受ける走行風はごくわずか。ヘルメット上部には風の流れを感じるものの左右に整流されているため風切り音自体は少ない。

気になる場合は、純正アクセサリーとして用意する87mm高さを伸ばした「ハイスクリーン」(3万1350円)と「スクリーンディフレクター」(1万5950円)を装着すればほぼ解決するはずだ。さらにハンドル回りに「ナックルガード」(2万6840円)と「ナックルガードエクステンション」(2684円)を追加すれば万全だろう。

「じつはアドベンチャーモデルにお乗りの方から、車両重量の軽いこの手が欲しいという要望を頂いていました。弊社はアドベンチャーモデルのフラッグシップとしてCRF1100 Africa Twinを、250ccクラスとしてCRF250 RALLYをご用意していますが、トランザルプはその中間モデルに位置します」(本田技研工業 二輪・パワープロダクツ事業本部トランザルプ・チーフエンジニア 佐藤まさよしさん)。

ホンダ XL750トランザルプの開発メンバーホンダ XL750トランザルプの開発メンバー

じつは今回のトランザルプ試乗にあたり、自身の終のバイクにどうかという個人的な想いがあった。現愛車はアドベンチャークラスに属するホンダ『VFR1200X』なのだが、パニアケースとトップケースで総重量は300kgを優に超えている。手に入れた8年前にはバイクの重さがここまで身体に堪えるなんて想像できなかったが、そんな悩みを抱える筆者にとって、トランザルプは“真ん中直球ストライク”の一台だった。

西村直人|交通コメンテーター
クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

《西村直人@NAC》

西村直人@NAC

クルマとバイク、ふたつの社会の架け橋となることを目指す。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつためにWRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。国土交通省「スマートウェイ検討委員会」、警察庁「UTMS懇談会」に出席したほか、東京都交通局のバスモニター役も務めた。大型第二種免許/けん引免許/大型二輪免許、2級小型船舶免許所有。日本自動車ジャーナリスト協会(A.J.A.J)理事。2023-2024日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会・東京二輪車安全運転推進委員会指導員。日本イラストレーション協会(JILLA)監事。

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