【ヤマハ ナイケンGT 新型】「前2輪には絶対的な優位性がある」ナイケンを取り巻く現状と新型のねらいとは

ヤマハ ナイケンGT 新型と、フロント2輪がリーンする“LMWポーズ”の開発メンバー
  • ヤマハ ナイケンGT 新型と、フロント2輪がリーンする“LMWポーズ”の開発メンバー
  • ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)
  • ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)
  • ヤマハ ナイケンGT 新型のプロジェクトリーダー、平川伸彦氏
  • ヤマハ ナイケンGT 新型、商品企画担当の小谷野英治氏
  • ヤマハ ナイケンGT 新型のアップデートされたエンジン
  • ヤマハ ナイケンGT 新型の新フレーム
  • ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)

フロント2輪のスポーツツアラー『NIKEN GT(ナイケンGT)』がモデルチェンジを果たし、受注が始まっている。ヤマハが掲げるLMW(Leaning Multi Wheel)モデルのフラッグシップとして、どのような進化を遂げたのか。エンジン、フレームに大きく手を入れたフルモデルチェンジでありながら、その姿はほぼそのままな理由とは。開発メンバーに独占インタビューを敢行した。

インタビューの模様は全3回にわたってお届けする。第1回となる今回は、プロジェクトリーダーの平川伸彦氏、そして商品企画担当の小谷野英治氏に、ナイケンシリーズを取り巻く現状、そして新型ナイケンGTがめざしたものについて聞いた。

◆ヤマハのエポックメイキングなモデルの中でも群を抜く孤高性

ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)

ヤマハが「ナイケン」の国内導入を開始したのは、2018年の秋である。それから半年後、ツアラーとしての快適性や利便性を向上させた「ナイケンGT」を追加。いずれのモデルも一般的なモーターサイクルとは一線を画す存在感で、強烈なインパクトを残してきた。

そんな異形のモデルに大幅な改良が施され、新たに展開されることになった。一見しただけではマイナーチェンジを思わせる佇まいながら、エンジンには排気量が異なる新ユニットが採用され、それにともなってフレームも変更。LMWテクノロジーの象徴として、世代が大きく進められることになった。

筆者が初代ナイケンに初めて乗ったのは、2018年9月である。直前まで降った雨の影響でテストコースにはウェットパッチが多数残り、それはバイクにとって本来最も避けたいコンディションながら、LMWの性能をアピールする絶好の場になった。

なぜなら、場所によっては水しぶきが上がるような路面上を、ナイケンはまったく何事もないかのように通過してみせ、コーナーではやすやすとフルバンクに達するほどのグリップ力と安定性を披露。ノーマルタイヤ同士なら、どんなスーパースポーツが相手でも引き離せるほどのスピードで駆け抜けたのだ。LMWの優位性は『トリシティ125』などでも体感(筆者の日常の足でもある)していたが、スポーツ性において、ナイケンのそれは段違いの領域に達していた。

かつての『RZ250』に端を発するレーサーレプリカの概念、『セロー225』や『TW200』がみせた走破性、『SRX』や『SDR』が突き詰めた軽さとスリムさ、『TDR250』に与えられた破天荒なコンセプト、『GTS1000/A』に採用された意欲的な機構の数々、『YZF-R1』が変えたスーパースポーツの在り方……と、ヤマハにはエポックメイキングなモデルが度々登場するが、ナイケンはそのデザインにおいても、ハンドリングにおいても群を抜く孤高性を放っている。

◆「フロント2輪の構造には絶対的な優位性がある」

ヤマハ ナイケンGT 新型、商品企画担当の小谷野英治氏ヤマハ ナイケンGT 新型、商品企画担当の小谷野英治氏

もっとも、孤高性とは時に人を選ぶものでもある。ナイケンおよびナイケンGTの主要なマーケットはヨーロッパだが、今に至るまでの評価はどういったものだったのだろう。

「私どもの狙い通り、やはりスタビリティに関しては一様に高い評価を頂いています。バイクのキャリアが長いライダーになればなるほど、フロントから得られるグリップフィーリングに驚かれます。LMWの乗り味を一度知ると、もう普通の2輪には戻れないというお客さまもいらっしゃるほどです」(商品企画担当の小谷野氏)

これは筆者も経験的によく分かる。路面が濡れていようが、荒れていようが、ちょっとやそっとのことではフロントタイヤは逃げる気配すら見せず、思い描いたラインを難なくトレースしてくれるのだ。路面に張りつくようなその安心感は、他に代えられるものではない。ただし、どんな新機構も万能であることは難しい。

ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)ヤマハ ナイケンGT 新型(写真は海外仕様)

「スタビリティの高さは、視覚的にも感じ取って頂けるものですが、捉え方によってはネガティブな印象にもなりえます。“重そう”、“大きい”、“メンテナンスが心配”といった声がそれで、そもそもフロント2輪を、バイクとして捉えてくださらない方もいます。そうしたフィードバックを受け、もちろんできることとできないことがありながらも可能な限り対応し、LMWの魅力をさらに訴求する。そのための改良が、今回のモデルチェンジです」(小谷野氏)

「そういう意味においては、新型ナイケンGTは軽くなったわけでも、小さくなったわけでもありません。ただし、フロント2輪という構造には絶対的な優位性がありますから、自信を持って突き詰めていく。それを出発点として取り組みました」(プロジェクトリーダーの平川氏)

軽くなったわけでも、小さくなったわけでもない。平川プロジェクトリーダーはそう言うが、撮影の際、新型ナイケンGTにまたがってみて驚いたことがある。初代ナイケンのシート高は820mmを公称し、新型ナイケンGTは825mmだ。つまり、スペック上は5mm高くなっているにもかかわらず、足つき性も乗降性も大きく向上。車体がコンパクトに感じられるほどの違いがあった。

シート高は5mmアップしたが足つき性も乗降性も大きく向上したシート高は5mmアップしたが足つき性も乗降性も大きく向上した

◆「好みがはっきり分かれることは想定内だった」

ところで、ナイケンの日本での評判はどんなものだったのだろう。

「ヨーロッパのライダーと同様、スタビリティの高さに加えて、長距離を走った後の疲労度の少なさを評価してくださるお客様が多いですね。LMWが持つ技術的なメリットをご体感頂いた証でもありますが、一方で乗り味がどうこうではなく、なにより見た目ありきで購入した、という方も少なくありません。ナイケンのメカニカルな雰囲気に惹かれ、これが初めての愛車だとおっしゃって頂いたこともあるほどです。また、これは少しレアなケースですが、このモデルがきっかけで入社を希望してきた人材もいます。ナイケンの形は、あくまでもロジカルなアプローチの結果ですが、そうした理屈抜きに魅力を感じて頂けているようです」(平川氏)

ヤマハ ナイケンGT 新型のプロジェクトリーダー、平川伸彦氏ヤマハ ナイケンGT 新型のプロジェクトリーダー、平川伸彦氏

インタビュアーとしてはやや中立性を欠く気もするが、筆者はそもそもLMWのファンであり、中でもナイケンのハンドリングには、ひとかたならぬ敬意を払っている。端的に言えば、もっと広がってほしい、もっと売れるべきだと考えている。とはいえ、街中で頻繁に見かけるトリシティシリーズと違い、同じLMWモデルでもナイケンはまだまだ希少な存在だ。

「ナイケンは他にない機構を持ち、それがデザインにも如実に表れていますから、好みがはっきり分かれることは想定内でした。ただし、LMWは特別視される存在ではありません。スポーツツーリングの枠組みの中にあり、リーンをともなうコーナリングを通して、バイクならではの爽快さを楽しんで頂ける乗り物です。できるだけ長い時間、しかもワインディングがある郊外だとメリットを体感して頂きやすいため、今後もそのPRに注力していくつもりです」(小谷野氏)

◆新型ナイケンGTのポテンシャルは

ヤマハ ナイケンGT 新型のアップデートされたエンジンヤマハ ナイケンGT 新型のアップデートされたエンジン

新型ナイケンGTは、エンジンの出力、ウインドプロテクション、荷物の積載性、電子デバイスによるアシスト範囲がそれぞれ向上している。ツーリングやキャンプがひとつのムーブメントになっていることや、リターンライダーは変わらず増加傾向にあることを踏まえると、ナイケンGTのポテンシャルはまったく低くない。スリップダウンのリスク軽減、急制動のしやすさという面からも推すべき理由がある。

「長距離ツーリングを好むライダーからの乗り換え需要に期待したいところです。日本でも欧米でも共通するエピソードとしてちょっとユニークなのは、フロント2輪+リア1輪の計3輪という構造上、バイクにリターンすることに否定的な家庭でも、ナイケンだったら納得してもらえるという話を聞きます。もちろん物理的な限界はありますが、開発陣の努力が築いたポジティブなイメージを、我々商品企画側がきちんと拡散していきたいと考えています」(小谷野氏)

今回はインタビュー前編として、あらためてナイケンを取り巻く現状を振り返ってみた。次回中編では、新型ナイケンGTに施された具体的な改良について迫っていく。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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