【ヤマハ ナイケンGT 新型】デザインは「変える必要なかった」、前2輪LMWに込めた開発者のアツすぎる思い

ヤマハ ナイケンGT 新型
  • ヤマハ ナイケンGT 新型
  • ヤマハ ナイケンGT 新型開発メンバー
  • ヤマハ ナイケンGT 新型のプロジェクトリーダー・平川伸彦氏
  • ヤマハ ナイケンGT 新型の商品企画担当・小谷野英治氏
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  • 電装担当の井上勝登氏こだわりの7インチ高輝度TFTカラーメーター

ヤマハ発動機のフロント2輪スポーツツアラー『NIKEN GT(ナイケンGT)』の開発者インタビュー第3弾。前編ではLMW(Leaning Multi Wheel)を取り巻く環境、中編では新型開発へのこだわりを聞いた。最終回となる今回は、大型メーターを採用したことによる商品性と機能の向上、デザインに込めたコンセプトを中心にお届けする。

今回話を聞いたのは、プロジェクトリーダーの平川伸彦氏、商品企画担当の小谷野英治氏、そして電装担当の井上勝登氏だ。

◆ユーザーの声を取り入れた高輝度TFTカラーメーター

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エンジンの変更、フレームの刷新、サスペンションの見直しによって、扱いやすさとハンドリングの向上が図られた新型ナイケンGT。この他、今回の変更点には、ユーザーの声をフィードバックしたものもいくつかあり、そのひとつが7インチの大型高輝度TFTカラーメーターの採用だ。

従来モデルにはネガポジ反転タイプの単色LCDメーターが装備され、これはこれで軽量化に貢献していた。とはいえ、決して安価ではない車体価格や近未来感あふれるイメージを踏まえると、物足りなさがあったのも事実だ。だからといって、単純に大きく、多機能なものに置き換えるとハンドリングへの影響が大きく、あちらを立てればこちらが立たない。そうしたせめぎ合いの中、設計側と車両実験側は幾度もの侃々諤々を経て、これをクリア。LMWの、あるいはスポーツツーリングのトップモデルにふさわしい、先進の装備が与えられることになった。

「メーターのパターンをシーンや好みに応じて3種類の中から選択できたり、スマートフォンとBluetooth接続することによって、電話やメールの着信、音楽の再生、周辺の天気などの表示が可能になっています。こうした利便性に加えて、メーターそのものにナビ画面を表示(専用アプリとGarmin社の有料地図アプリが必要)できるようになった点が、大きなメリットです。スマートフォンを外部ホルダーの取り付ける方法と比べて、落下や熱によるトラブル、視点が分散することによる集中力の低下を軽減。現状ではこれがベストなスタイルだと考えています」(電装担当の井上氏)

電装担当の井上勝登氏こだわりの7インチ高輝度TFTカラーメーター電装担当の井上勝登氏こだわりの7インチ高輝度TFTカラーメーター

「開発の一環として、欧州を走る機会が幾度かありました。当然、日本とは道路事情もルールも異なり、知らない土地だと方向感覚も分からない。なのにアベレージスピードが高い国や場所が少なくなく、私くらいのスキルだとかなり緊張を強いられることになります。そんな時でも、メーターにナビ画面が大きく表示され、これから進む先のカーブの曲率や距離感が掴めるだけで安心感がまったく違うんです。視認性や商品性だけじゃない、大型メーターの意外な効能でした」(プロジェクトリーダーの平川氏)

◆「責任ある継続」デザインは変える必要がなかった

さて、ここまでお伝えしてきた通り、新型ナイケンGTは多くのコンポーネントが刷新されている。いわゆるフルモデルチェンジに当たるわけだが、新型と従来型を外観で瞬時に見分けることは難しいかもしれない。これは“あえて”なのだろうか。

「デザインのイメージは従来モデルから踏襲しています。変える必要がなかったとも言えます。なぜなら、フロント2輪リア1輪の間にエンジンを置く。それをパイプフレームで懸架する。その上に人が乗る。そこに、ツーリングを快適にこなすための乗車姿勢や安定性を加える……という風に進めていくと、ほぼ必然的にこのカタチなるんです。ただし、新しい装備もありますから、それらをいかに溶け込ませるかがポイントでした。キーワードに掲げた“Visible and harmonized function”とは、機能の視覚化と調和を意味しています」(平川氏)

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なるほど。スクラップ&ビルドによって世代を進めていく手法が日本的な取り組みだが、「SR」や「セロー」、「Vmax」、「FJR」のように、ヤマハにはキープコンセプトのまま生き長らえたモデルが多く、そのぶんファンの層も厚い。

「新型が広く受け入れられることを願っているのはもちろんですが、従来モデルをご購入くださった方にもじっくり見て頂きたいですね。初代ナイケンはそれまでにないジャンルを切り開いたモデルですし、そのデザインはまったくなにも無い状態から生まれたもの。それに対するリスペクトを、プロジェクトを引き継いだ我々は忘れていません。責任ある継続によって、これまでのお客様には“自分の選択は間違っていなかった”と思って頂きたいですし、これからのお客様には正常進化の成果を喜んで頂ける。そう信じて取り組んでいます」(平川氏)

新型ナイケンGTは、ヤマハブラックの一色展開となる。その名称の通り、深く艶やかなブラック塗装で外装を包み、フレーム/ホイール/フォークブラケットといったパーツにはブロンズカラーを施すことで高い質感を実現している。

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「これまで展開されてきたグレーやブルーは、ナイケンの未来感というか、メカニカルな構造を伝えるための必然でした。今回はそこから一歩進め、プレミアムな美しさを演出。止まっている時だけでなく、ライディングしている時も凛とした雰囲気が崩れないよう、各国の拠点からの意見も反映しながら細部まで検討しました」(平川氏)

純正アクセサリーで、注目すべき製品はあるのだろうか。

「ツアラーですから、新意匠のサイドケースはぜひおすすめしたいアクセサリーです。片側で約30リットルの容量が確保され、一般的なフルフェイスヘルメットも収納できるようになっています。また、フロント2輪が左右に張り出すLMWの構造上、跳ね上げられた雨水や泥が足にかかるという問題がありました。その対策パーツとして、マッドフラップを設定しています。これは従来モデルにも装着できるため、ぜひお試しください」(商品企画担当の小谷野氏)

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◆「いつの日か誰も追いつけないところに到達できる」

ところで、最後にやや意地悪なことを聞いておこう。

初代ナイケンは2018年9月にデビューし、その時の国内年間販売計画台数は400台に設定されていた。その後、ナイケンGTの追加(2019年3月)やカラーチェンジ(2019年11月)があり、そして今回のモデルチェンジに至るわけだが、計画台数はその過程で300台、200台、100台と推移。主要なマーケットは欧州であり、そもそも日本では大型スポーツツアラーの需要はさほど多くないとはいえ、これをどう捉えればいいのか。

「私どもは、ものづくりを進める方針のひとつに“広がるモビリティの世界”を掲げています。LMWは新しい面白さを提案するための技術であり、その象徴であるナイケンはもともと大きな数字を狙ったプロダクトではありません。しかしながら、これを継続することによって、リーンする乗り物の選択肢の中に、ごく当たり前にナイケンが並ぶ。それくらいの存在に押し上げていきたいと考えています」(小谷野氏)

プロジェクトリーダー・平川伸彦氏(左)と商品企画担当・小谷野英治氏(右)プロジェクトリーダー・平川伸彦氏(左)と商品企画担当・小谷野英治氏(右)

「初代のプロジェクトがスタートした時、私の役割は車体設計をまとめることでした。技術的にもコンセプト的にもまったく新しい乗り物に、そういう立場でかかわれたことは、エンジニアとして大きな財産だと思っています。製品として世に出たということは、それを購入してくださったお客様がいるということ。カタチになったものを、すぐにあきらめてしまうような組織であってはならないし、したくありません。他にない技術や知識、知恵を蓄積し続けていけば、いつの日か誰も追いつけないところに到達できるはず。そういう信念で取り組んでいますし、そういうメーカーの一員でありたいですね。ナイケンに関しては、もしかすると新型の可能性はないと思っていた人もいるかもしれませんが、こうして送り出せました。新しいアイデアを盛り込む余地はたくさんあり、これからもまだまだ進化させられる可能性に満ちた素材です」(平川氏)

ヤマハが切り開いたLMWの道は、どこへ、そしてどこまで続いていくのか。今後も目が離せない。

《伊丹孝裕》

モーターサイクルジャーナリスト 伊丹孝裕

モーターサイクルジャーナリスト 1971年京都生まれ。1998年にネコ・パブリッシングへ入社。2005年、同社発刊の2輪専門誌『クラブマン』の編集長に就任し、2007年に退社。以後、フリーランスのライターとして、2輪と4輪媒体を中心に執筆を行っている。レーシングライダーとしても活動し、これまでマン島TTやパイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム、鈴鹿8時間耐久ロードレースといった国内外のレースに参戦。サーキット走行会や試乗会ではインストラクターも務めている。

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