昨今より一層の注目を集めるカーボンニュートラル燃料(CNF)を4回に渡って解説する本シリーズ。第2回の水素に続く今回は、アルコール燃料とバイオ燃料について説明する。
バイオエタノールとメタノール
化石燃料と水素以外で、燃えるものと言った時、多分一番わかりやすい例はアルコールである。われわれにとっても理科の実験で使ったアルコールランプで馴染み深い。
アルコールには、発酵によって作られるエタノールと、天然ガスや石炭、バイオマスを改質して作るメタノールの2種類がある。バイオエタノールは基本植物から作られ、現在、一般的にはサトウキビやトウモロコシがその代表である。植物などが大気中の二酸化炭素を固定することで作った糖質や澱粉を、微生物発酵させたもので、前述の通り炭素を軸とした燃料である。元々大気中から植物が取り込んだ二酸化炭素が燃焼で元の場所に戻るだけなので、大気中の二酸化炭素の総量は変わらない。つまりカーボンニュートラルというわけである。
今すぐ使えるCNF、バイオエタノール
例えばブラジルではすでにバイオエタノールが完全に商業化されており、普通にスタンドで売られている。値段もガソリンとさほど変わらない。というかリットルあたりの単価だけで言えばむしろガソリンより安いことが多い。ブラジルでクルマを売っている自動車メーカーはすでに全ての新車についてフレックスフューエル化している。ガソリン100%でもバイオエタノール100%でも走れるだけでなく、給油の都合で注ぎ足しで混ぜても使用可能だ。車両価格が高いか安いかは全車フレックスフューエル対応なので、少なくとも割高という問題もなし。まあ対応したニューモデルが出る際には多少価格が上がるのだろうが、通常のモデルチェンジと変わらない。対応と言っても燃焼時に出る水の量が増えるためゴムシール類の耐水性向上や、燃料系は金属などの種類(鉛、ニッケル、モネルメタル、鋳鉄、高ケイ素鉄)によってはメタノールで腐食するため、それらの素材を排除する必要がある程度で、大きなコストがかかる要因がそもそもない。
リットルあたり単価はむしろバイオエタノールの方が安いが、両者には燃費の差があり、同量ならガソリンの方が長距離走れる。ガソリンとバイオエタノールではエネルギー密度が違うからだ。ユーザーはその日の燃料相場を見て、どちらを選択するかを決めている。概ねバイオエタノールの価格がガソリンの70%以下であればバイオエタノールを選ぶという。ブラジルは現在国内で消費しているバイオエタノールの6倍程度までは増産可能とアナウンスしている。
技術的にはすでに商用展開済みのCNFであり、ブラジル1国の規模では、価格や生産量も含めて、「作る」「運ぶ」「使う」の3つとも完全に解決済み。世界的なCNFへの移行に際し、おそらくもっともハードルが低いと思われる燃料だ。すでにガソリンと同等のポテンシャルを確保したということは、車両価格や、耐久性、充電インフラの自立性などに課題を残すBEVより遥かに到達レベルが高く、今すぐ使えるCNFである。
さて先ほどサトウキビとトウモロコシが多いと書いたが、バイオエタノールはさまざまな原材料から生産が可能である。サトウキビとトウモロコシの他に、大麦、小麦、ライ麦、オーツ麦、米、グレインソルガム(きびの一種)、さつまいも、じゃがいも、甜菜(砂糖大根)など、要するにアルコールなので、酒が作れる材料ならなんでも良い。多種多様な作物から生産可能なため、幅広い気候の地域で生産が可能だ。