どうなる? 東南アジアでのクルマの電動化…BEVかHEVかで揺れる政府と日中韓メーカー【藤井真治のフォーカス・オン】

BYD ATTO 3
  • BYD ATTO 3
  • MG4 EV
  • テスラ モデルY
  • 2022-2023年のタイとインドネシアにおけるEV販売データ
  • タイのベストセラーはディーゼルの1トントラック
  • インドネシアのベストセラーであるトヨタ アバンザと、中国製EV ウーリン Air EV
  • インドネシアの富裕層に人気のヒョンデ アイオニック5
  • 好評の新型キジャン イノーバのハイブリッド車

タイ自動車市場で電動化の流れが止まらない。

本年1-5月の新車販売台数の内電気自動車は約8万3000台(運輸省登録ベース)、市場全体の20%にまで膨れ上がっている。中でも、伸び止まり感のあるハイブリッド車(HEV、エンジンと電気を両方動力源として使う)と対照的に純電気自動車とも言えるBEV(バッテリー式電気自動車)の伸びが昨年比で6倍近いスピードだ。

思い切ったインセンティブ政策に反応した中国ブランドとテスラ

タイのBEVの爆発的な販売を牽引しているのが複数の中国ブランドとテスラだ。タイ政府は高コストのBEVを買いやすい価格とするため物品税の免税措置や輸入関税の減免といったパッケージ政策を用意。これに応える形で中国車をはじめとする新規参入ブランドがBEVのモデルを積極投入したことが消費者の購買意欲に火をつけたようだ。特に日本でも発売されているBYDの『ATTO3』は今年はすでに9000台以上を売り上げBEVのベストセラーに躍り出ている。他にも中国MGブランドのMGやキュートなORA(GWM、長城汽車) 、NETAなど日本では馴染みのないモデルが首都バンコク市内で目につく。

MG4 EV

これに対しこれまでハイブリッド車(HEV)やプラグインハイブリッド車(PHEV)に注力していた日本勢は今のところBEVは少量販売前提のレクサス2モデル、トヨタの『bZ4x』、日産の『リーフ』しか市場に投入できていない。堰を切ったような中国ブランドの快挙を横目で見ているようだ。

インドネシアでもワンテンポ遅れて電動化が起こるか

一方アジア最大の自動車市場インドネシア。タイと同じく政府は電気自動車の普及に躍起となり税制の恩典も打ち出してはいるものの、市場の反応は今ひとつ。本年1−5月の電気自動車の販売はBEV とハイブリッド車合わせてもわずかに1万7000台(BEVはわずか5000台弱)とタイと比較すると少し寂しい状況である。

2022-2023年のタイとインドネシアにおけるEV販売データ

電気自動車のバッテリーの原料として欠かせないニッケルやコバルトなどの天然資源が豊富なインドネシア。原料からバッテリー、専用部品からBEV生産までのサプライチェーン構築を目論む政府としては、足元の国内市場の低調さに気が気でないだろう。そもそもインドネシアはタイと比較し高額商品の購買力が低く、電気自動車どころか新車の購買層自体が一部の富裕層に限られ年齢層も高い。ただし、現在の量販 BEVブランドのウーリン(五菱)に続けとばかり複数の中国メーカーがインドネシアでの事業展開に着手しており、タイを追随するビッグバンが起こる可能性もある。

都市部に住む複数保有の富裕層とヤングエリートに限定されるBEV

タイやインドネシアに新規参入した中国ブランドの新モデルという位置付けのBEV。ユーザーは都市部に住んでいて家に車を複数持っている富裕層か都市部のヤングエリートであると考えられる。前者は、日本ブランドへのロイヤリティは高いが車庫に並べる車として1台買ってみようという人たち。自宅の充電器を設置する余裕がある。後者は同じく都市部に住むヤング・エリート層。日本車へのロイヤリティは希薄で新トレンドに乗って新規にBEVを買う、あるいは手持ちのホンダやトヨタの小型車を買い替えてみよう、といった人たちであろう。


《フォーカスオン》

藤井真治

株式会社APスターコンサルティング CEO。35年間自動車メーカーでアジア地域の事業企画やマーケティング業務に従事。インドネシアや香港の現地法人トップの経験も活かし、2013年よりアジア進出企業や事業拡大を目指す日系企業の戦略コンサルティング活動を展開。守備範囲は自動車産業とモビリティの川上から川下まで全ての領域。著書に『アセアンにおける日系企業のダイナミズム』(共著)。現在インドネシアジャカルタ在住で、趣味はスキューバダイビングと山登り。仕事のスタイルは自動車メーカーのカルチャーである「現地現物現実」主義がベース。プライベートライフは 「シン・やんちゃジジイ」を標榜。

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