「トヨタの技で、モノづくりの未来を変える」池田直渡の着眼大局セミナー第1回【プレミアムセミナーレポート】

「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~
  • 「池田直渡の着眼大局セミナー 第1回~トヨタの技で、モノづくりの未来を変える~

2023年12月12日、イードはオンラインで「池田直渡の着眼大局セミナー」を開催した。第1回は、トヨタ自動車のChief Production Officer 新郷和晃 執行役員が講師として登壇。「トヨタの技で、モノづくりの未来を変える」と題し、トヨタの目指すモノづくりに関する説明が行われた。その内容をダイジェストでお届けする。


「もっともっといいクルマをつくろうよ」

最初に、過去14年間のトヨタの経営姿勢が紹介された。豊田章男社長(当時)の経営哲学は、「もっといいクルマをつくろうよ」「この町いちばんの会社」という商品と地域、2つを軸にしたものだった。

商品に関しては、企画・開発から生産まで、全体を通してクルマづくりに取り組む「カンパニー制」を2016年に導入。顧客ニーズの高いレクサスやSUVのラインナップ拡充、ファンが望むスポーツカーの復活と社会を支える商用車の積極的な投入を行った。開発陣が限界を設定することなく、「お客さまが望む」いいクルマづくりに注力した。

「この町いちばん」という地域軸経営においては、北米中心の「一本足打法」だったものから、アジア新興国や中国での販売を拡大した。バランスの取れたグローバルな販売構成の達成は、グローバルに同じ商品を売るのではなく、地域の個性に合わせたクルマを投入したことが成功のカギだった。

カーボンニュートラルへの取り組み

カーボンニュートラルへの取り組みは、「マルチパスウェイ」が基本。CO2を削減する有効な方策は、地域によって異なる。HEV、PHEV、BEV、FCV、水素エンジンといった複数のソリューションを並行して開発している。

BEVが唯一の選択肢となる政策を採る地域もあるが、現在のBEVがすべての課題を解決できるわけではない。地域の経済状態や再生可能エネルギー(由来の発電)状況、世の中の変化などに応じて、素早く実効的な対策を講じることが可能なのがマルチパスウェイの強みだ。

「使う」領域だけでなく、クルマのライフサイクル全体でのCO2削減にも取り組んでいる。日常の省エネから始まり、生産技術の改善によるエネルギー使用量の低減に取り組んでいる。再生可能エネルギーや水素の利用なども行い、昨年はCO2排出量をグローバルで2019年比17%削減した。

再生可能エネルギーの利用は地域の事情に大きく左右されるが、欧州や南米、インドでは「再エネ100%」を達成。日本でも田原工場に風力発電機を5基設置した。2035年のカーボンニュートラル達成に向け、グローバルで取り組みを加速している。

モビリティカンパニーへの変革

トヨタは2018年のCESで「モビリティカンパニーへの変革」を宣言。今年4月には、「トヨタモビリティコンセプト」を発表した。「クルマの価値の拡張」「モビリティの拡張」「社会システム化」といった3段階の戦略で取り組んでいく。

最終的には、カーボンニュートラルなエネルギー活用と自動運転を活用した交通システムや物流を通して、ウェル・ビーイング(※)に貢献することがトヨタの「夢」だという。

※「ウェル・ビーイング」とは、個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあることを意味する概念。(出典:厚生労働省 雇用政策研究会報告書概要案)

モノづくりの「継承」と「進化」

高い技術と技能:単純に自動化を進めれば生産性が上がるわけではない。『ランドクルーザー』のフレーム溶接は、熟練技能者が板と板のすき間に生じる微妙な変化に応じた作業を行う。『クラウンスポーツ』のリヤバンパーは、塗装せずにピアノブラックを実現している。これは、技能者が型を傷1つなく均一に鏡面加工することで可能になった。

こうした再現が難しい「技」をロボットに教え込むためにも、高い技能が社内にあることが大切になる。自動化と言えど、単に人がロボットに置き換えられるわけではない。ベースになるのは飽くまでも人であり、技能者が機械に教える中で改めて学び直し、それをまたロボットに教えていくことで、自動化がより良いものになっていく。こうした循環を進めるためにも、技能の継承や技術者の育成は重要だ。

人財を鍛える現場の力:現場の一人ひとりにTPS(トヨタ生産方式)が根付き、全員がモノづくりの情熱をもって改善を続けていくことも重要と考える。トップが「いいクルマをつくるぞ」と言っても、それですぐクルマができるわけではない。世代を超えて、人財を育てる「継承」も改めて大切にしている。

また、モノづくりの未来を変えていくために、技能と技術をデジタルや革新技術と融合させていく。プロセスにかかる時間を短縮し、何度もチャレンジしてから世の中に出して行く。この組み合わせが大事だ。例えば、生産設備の開発では3Dバーチャル空間を活用している。技能者がモデルを作り、その中で改善活動を重ねた上で、リアルの設備設計に反映している。この手法で、開発期間の短縮を実現した。

多様な電池のソリューション

求められるバッテリーの特性が、HEVとPHEVおよびBEVでは大きく異なる。HEVは「出力型」で瞬発力が求められる。これまで、ニッケル水素電池とリチウムイオン電池を進化させてきた。瞬発力を重視したバイポーラ型ニッケル水素電池も、2021年の発表以来、搭載車種を拡大している。

PHEVやBEVに搭載するバッテリーは、容量が重要で持久力重視型のリチウムイオン電池。コストと持久力の両立を継続的に改良しており、2020年代後半に向けて新型のバッテリーを開発している。

電池に関しても「マルチパスウェイ」と言える。特定のレアアースが必要なバッテリーに偏ることは、コストや調達面でのリスクがある。使い方や地域資源などの状況に応じた正解があるとトヨタは考えており、次のような次世代電池開発に取り組んでいる。


《石川徹》

特集