【ホンダ フリード 新型】「“ちょうどいい”と言葉でいうのは簡単」それでも目指した唯一無二の価値とは

ホンダ フリード 新型と、開発責任者の安積悟さん
  • ホンダ フリード 新型と、開発責任者の安積悟さん
  • ホンダ フリード 新型の開発責任者、安積悟さん
  • ホンダ フリード 新型(エアー)
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ホンダは6月に発売予定のミニバン、新型『フリード』に関する情報を公開。これに合わせて一部メディアに実車が先行公開された。新型はどのような進化を果たしたのか。開発のねらい、こだわり、そのコンセプトとは。開発責任者を直撃した。

◆グランドコンセプトに込めた思い

新型フリードのラインアップは、先代の改良時に加わったクロスオーバーSUV風の「クロスター」(6人乗り・5人乗り)と『ステップワゴン』から新グレードとして登場した「エアー」(7人乗り・6人乗り)があり、ドライブトレインはハイブリッド(e:HEV)とガソリン、そして二駆と四駆がある。また積極的に外出してほしいという思いから福祉車両はクロスターのみに設定される。

ホンダ フリード 新型(エアー)ホンダ フリード 新型(エアー)

そんな新型フリードのグランドコンセプトが、“Smile Just Right Mover~こころによゆう 笑顔を毎日~”。これを掲げた理由を開発責任者の安積悟さん(本田技研工業 電動事業開発本部 BEV開発センター)は、「フリードがずっと継承し続けている、“ちょうどいい”というキーワードが非常に大切です。実は全く違うクルマにという考えも当初はありましたが、“Just Right(ちょうどいい)”というキーワードを強く意識して開発したのです」と話す。

「フリードは非常に幅広いお客様にご愛用いただきます。日常の生活をサポートする乗用車的、セダン的な快適さ。そしてミニバンとして重要なユーティリティ、使い勝手。そこに加えクロスターはかなり個性を強くしてエアーと差別化しています。そのクロスターから感じられるSUV的な価値観もあり、お客様の生活、趣味、思考など、全てのお客様に満足いただきたいということでカテゴリーを定めず、“Mover”という意図的なキーワードにしました」

そして“Smile”については、「便利で使いやすくて快適で、少なくともクルマに関わるストレスは与えたくない。そこから生まれる快適さや余裕から笑顔から生まれることを期待してのスマイルです。サブタイトルの“こころによゆう”に繋がる意味合いを持っています」と説明する。

◆「ちょうどいい」と言葉でいうのは簡単

ホンダ フリード 新型の開発責任者、安積悟さんホンダ フリード 新型の開発責任者、安積悟さん

ここで最も重きを置いたのは何だろう。安積さんは、「“よゆう”は最後に行き着きたいところなんですが、そのためにはみんなが笑顔じゃないとダメなんです。笑顔になったら人は優しくなって、そうしたらまた笑顔が生まれる。そうなると気持ちに余裕が生まれるという良いサークルを描きたかったんです」。

そして笑顔にするためには、ちょうどいいことが必要だという。「ちょうどいいと、言葉でいうのは簡単なんですけど、ものすごく難しいんですよね。広くするには(ボディを)大きくすれば簡単ですし、コンパクトにちっちゃくしたいなら(ボディを)どんどん小さくすればいいんです。でもちょうどいいというのは、寸法、物理的なものではない。ですから(フリードのサイズ感が)ちょうどいいというのであれば、それをきちんと守る。そのうえで当然室内は広い方がよくて快適な方がいいので、このサイズの中にできるだけ広く快適に使いやすくという、相反するものを凝縮していくというこだわりで進めました」と語った。

それがフリードのコア価値のひとつ、「余裕の取り回しを実現するためのフォルムとサイズ感を持ち、その結果、不安を感じないサイズでお客様の日常をサポートすること」に繋がっているのだ。

◆広く感じる vs 大きく感じる

ホンダ フリード 新型(エアー)ホンダ フリード 新型(エアー)

「室内の広さ」については、実寸だけでなく「感覚的なものも大切」だという。

「(実際に)広くした結果、それが“広く感じる”のは良いんですが、“大きく”感じてしまうとダメなんです。大きく感じてしまうと不安につながってしまう」と述べる。そう感じさせないためにフリードではインパネのデザインに工夫をこらした。インパネは横基調にして端から端まで繋げると広さ感に大きく貢献する。しかし、これは「運転に自信のないドライバーからすると同じ寸法なのに大きく感じてしまう」ことにもつながる。フリードは日常生活の足として活躍するクルマだ。従って、「日常に追われながら運転する人が多いので、少しでも不安に感じるようなものはやめたい。そこでインパネにパッドを巻いたり、端まで繋げずにエアアウトレットを設けるなどで、少しコンパクトに感じるようにしています」とした。

一方でフリードはミニバンなので2列目や3列目に座る人たちにとって広さそのものは重要だ。そこで、「シートの形状や色、ベルトラインなどをできるだけ水平基調にして広く感じてもらえるようにしました」と説明し、「ドライバーはコンパクトに運転したい。2列目、3列目の人たちは広く感じていただきたい。そうすることで、乗っている人たちそれぞれの感覚でベストな感情と感性を感じていただけるようにしていく。それがミニバンに必要なニーズだと私は思っています」と語る。

安積さんが最も実現したかったのはこの、「全ての人に快適に過ごしてもらいたい価値観の演出」だったのだ。

ホンダ フリード 新型(クロスター)ホンダ フリード 新型(クロスター)

◆クラス唯一無二のミニバン価値

従来モデルのフリード(2016年登場)は、モデル末期においても年間7から8万台の販売を記録するヒット車だ。安積さんは「もちろん競合となるクルマはいますが、このクラスのミニバンはフリードしかないと私は思っています」と評価する。

「ミニバンの価値は3列までしっかり座れること。競合といわれるクルマは5人乗りのスライドドアで、その使いやすさが評価されていると思っています。ですからミニバンはフリードだけ」とそのポジションを説明。つまりフリードの強みは「ミニバン価値がしっかりとあること」と明言。「1列目、2列目、3列目それぞれしっかりと座れること。それがフリードのお客様が求めている価値。そこだけは絶対に崩せないし、そこだけは進化させないといけないし、熟成させないといけない」と新型でも外せないポイントとされた。

一方で要望もあった。それは、「室内が広いのは良いが、暑い」というものだった。そこで今回はリアクーラーを装備。「このサイズでリアクーラーが付いているのはフリードだけ」としっかりと2列目、3列目の快適性も確保したことを強調する。

ホンダ フリード 新型(エアー)ホンダ フリード 新型(エアー)

また、3列目シートの使いにくさや、跳ね上げ時の重さ、操作しにくさなども挙げられた。そこで列目シートはフレームから作り替え、機構部分を薄くするなどで片側約1.3kgの軽量化に成功。ヒンジも変更し操作性を良くして、かつ、跳ね上げた時の収納性も良くした。「座り心地を維持しながら操作性、ユーティリティ性を高めています」と安積さん。ミニバン価値を重視していることから、「列目シートはエマージェンシー(緊急用)ではなくしっかりと座って、快適に過ごしていただけるように工夫はしました」。

同時に1列目、2列目シートにも手が加えられた。特に2列目のキャプテンシートは「パッド形状からクッションまで全部変えて快適性を向上させています。本来、クルマの評価はドライバー席に座ってハンドリングや乗り心地を見ますが、2列目シートにもちゃんと人が座ってその良し悪しを評価しています」とし、「キャプテンシートに関しては自信を持って本当に快適に座っていただけるでしょう」と安積さん。フリードの特等席は2列目のキャプテンシートのようだ。

ホンダ フリード 新型(エアー)ホンダ フリード 新型(エアー)

安積さんの話の中で、何度も「笑顔」というワードが出てきた。日常生活でのストレスを感じているドライバーに、クルマからのストレスは感じさせたくない。そうすることでフリードに乗っている間はホッと一息ついて、余裕をもってほしい、そして笑顔を取り戻してほしいという思いがこのフリードには詰まっているのだ。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

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